LDH(乳酸脱水素酵素)が高い・低い原因と、筋トレの影響

文:中原 秀一郎(精密栄養カウンセラー)2026年10月16日

LDH(乳酸脱水素酵素)は体のほとんどの細胞の中にある酵素で、細胞が傷ついたり壊れたりすると血液中に出てきます。そのためLDHが高いときは「どこかの細胞から出てきている」ことは分かりますが、どこから出ているのかはLDHだけでは分かりません。激しい筋トレのあとや、採血した血液の中で赤血球が壊れたときにも高く出るので、ほかの項目と組み合わせて読むことが大切です。

LDHは何を表す数値か

LDHは、糖が分解されてできるピルビン酸と、乳酸とを互いに変換する酵素です。この反応には、ビタミンB3(ナイアシン)から作られるNADという補酵素が使われます。強い運動などで酸素を使ったエネルギー作りが追いつかないとき、ピルビン酸を乳酸に変えて、糖の分解(解糖系)を続けられるようにしています。

LDHは心臓、肝臓、骨格筋、腎臓、肺、赤血球など全身にあり、健康な人でも細胞の入れ替わりに伴って少しずつ血液中に出ています。多くの細胞が傷つくと、その分だけ血液中のLDHが増えます。

基準範囲

日本臨床検査標準協議会(JCCLS)の共用基準範囲では、LD(LDH)は124〜222 U/Lです。2020年ごろから測定法が国際的な方法(IFCC法)にそろえられましたが、基準範囲はこの値のままです。検査機関によって基準範囲が少し異なることがあるので、手元の結果に書かれた範囲も確認してください。

共用基準範囲の詳しい表では、健康な成人の中央値は165 U/Lです。男女・年齢で分けると、男性は中央値168 U/L・上限225 U/L、45歳未満の女性は158 U/L・208 U/L、45歳以上の女性は178 U/L・240 U/Lで、女性では閉経の時期にあたる45歳以上のほうが高めに分布します。子ども、特に乳幼児は大人より高めに出るため、大人の基準範囲はそのまま当てはめません。

5つのアイソザイム

LDHには構造が少しずつ違う5つの型(アイソザイム)があり、LDH1〜LDH5と呼ばれます。心筋に多いH型と、骨格筋や肝臓に多いM型の2種類の部品(サブユニット)が4つ組み合わさってでき、その比率で5つの型に分かれます。どの型が多いかは臓器ごとに違います。

型多く含まれる主な場所増えやすい場面の例
LDH1(H4)心臓、赤血球、腎臓溶血、ビタミンB12・葉酸の不足に関係する貧血、心筋の障害
LDH2(H3M1)心臓、赤血球、腎臓LDH1と同じような場面、血液の病気
LDH3(H2M2)肺など肺の病気、血液の病気
LDH4(H1M3)肝臓など肝臓の障害
LDH5(M4)肝臓、骨格筋肝臓の障害、激しい運動による筋肉の損傷

多く含まれる場所の振り分けは、資料によって少し異なります。健康な人の血液ではLDH2が一番多く、LDH1とLDH3がそれに続き、LDH4・LDH5は少なめです。アイソザイムは一般的な健診には含まれず、必要に応じて医療機関で調べられます。

LDHが高いときに考えられること

「高い」というだけでは原因を絞れないので、身近なものから順に見ていきます。

採血した血液の中で赤血球が壊れた

赤血球の中には、血清よりはるかに多くのLDHが含まれています。採血に時間がかかった、検査までに時間がたった、といった理由で試験管の中の赤血球が壊れると、体の状態とは関係なくLDHが高く出ます。目で見て分からないほどの軽い溶血でも、LDHの値に影響が出ると報告されています。カリウムやASTも一緒に高めに出やすいのが特徴で、詳しくは溶血のページで扱っています。

筋トレや激しい運動

筋トレや長距離走で筋線維に細かな傷がつくと、筋肉からLDHやCK(クレアチンキナーゼ)、ASTが血液中に出てきます。多くは運動に伴う一時的な反応と考えられています。慣れない運動、特に筋肉が引き伸ばされながら力を出す動き(下り坂を走る、重りをゆっくり下ろすなど)のあとは、筋肉が傷つきやすいとされています。

LDHは運動の直後より数日後に高くなることがあります。重りをゆっくり下ろす運動の研究ではピークが3〜5日後、普段は筋トレをしない人が筋トレをした研究では少なくとも7日間高いままでした。強い筋肉痛のあとに尿の色が濃くなったときは、早めに受診してください。

赤血球が体の中で壊れている、またはうまく作られていない

体の中で赤血球が壊れる溶血性貧血では、LDHとともに間接ビリルビンが上がり、ハプトグロビンが下がります。また、ビタミンB12や葉酸が不足して起こる巨赤芽球性貧血では、骨髄の中で未熟な赤血球が壊れるため、LDHが大きく上がることがあります。この場合はMCV(赤血球の大きさ)が大きくなるのが手がかりの一つです。

肝臓・心臓・肺などの障害

肝炎などで肝細胞が傷つくとLDHは上がりますが、肝臓の状態はAST・ALT・γ-GTPのほうがよく反映するため、LDHはそれらと並べて読みます。心筋梗塞でもLDHは上がりますが、現在、心臓の状態はトロポニンなどの検査で調べるのが中心です。肺の病気や、感染症などで上がることもあります。

腫瘍

がん細胞の多くは、酸素が十分にあっても糖を乳酸に変える代謝を盛んに使い(ワールブルグ効果)、LDHを多く持っています。がんが進んで広がり、こうした細胞が増えたり壊れたりする量が多いときに、血液中のLDHが高く出やすくなります。医療では一部のがんで、病気の見通しを判断する目安の一つとして使われています。ただ、LDHは様々な理由で上がるため、高いことだけでがんかどうかは分かりません。

マクロLDH

LDHが血液中の抗体(免疫グロブリン)と結び付いた「マクロLDH」のために、細胞が傷ついていなくても高い値が続く人もいます。それ自体は害がないことが多いものの、ほかの病気と一緒に見られることもあるため、医療機関で確かめてもらいます。

LDHが低いときに考えられること

LDHが基準範囲を下回ることは多くなく、低いことが医療で問題になる場面は限られています。明らかに低い値が続くときの原因として知られているのが、LDHを作るサブユニット(H型またはM型)が生まれつき欠けている体質です。1980年に日本の研究者が報告したM型の欠損の例では、運動をすると尿の色が濃くなる(筋肉が壊れてミオグロビンが尿に出る)ことと、疲れやすさを訴えていたことが記録されています。H型の欠損では決まった症状が出にくく、多くは検査で見つかるとされています(溶血が見られた家系の報告もあります)。

一方で、LDHの低さを「エネルギー代謝が落ちているサイン」と結び付ける解説も見かけます。けれども、血液検査のLDHは細胞の外に出てきた酵素の量で、細胞の中でどれだけ働いているかを測っているわけではありません。基準範囲の中で低めというだけで、エネルギー代謝が滞っていると言える裏付けは、今のところ十分ではありません。

精密栄養学ではどう見るか

基準範囲の内側の偏りを見る

私は、基準範囲に入っているかどうかだけでなく、範囲の中で上下どちらの端に寄っているかも見ています。例えばLDHが215 U/Lなら共用基準範囲の内側ですが、全体の中央値165 U/Lと比べるとかなり上に寄っています。中央値は男女・年齢で少しずつ違うので、自分に近い群の値とも比べます。45歳未満の女性なら、その群の上限208 U/Lを少し超えた位置です。これだけで異常という意味ではなく、何がLDHを押し上げているのかをほかの項目から確かめるきっかけにする、という私の読み方で、医療の基準とは別のものです。

同じ人の前回の値と比べることも大切です。いつもは160 U/L前後の人が210 U/Lになっていれば、範囲内であっても変化として見ます。

ほかの項目と組み合わせて読む

LDHがどこから来ているのかは、一緒に動いている項目から手がかりが得られます。

一緒に見られる動き考えられる背景の例
CKが目立って高く、AST(筋トレのあとはALTも)が上がるが、γ-GTPは動かない筋肉から出ている可能性(運動のあとなど)
AST・ALTとともにγ-GTPも高く、CKは高くない肝臓から出ている可能性
間接ビリルビンが高く、ハプトグロビンが低い体の中で赤血球が壊れている可能性
カリウムとASTも少し高く、ほかに説明がつかない試験管の中で赤血球が壊れた可能性(再検査で確かめる)
MCVが大きく、LDHが目立って高いビタミンB12・葉酸の不足が関係している可能性

これは読み解きの手がかりで、原因を決めるものではありません。運動と採血の条件を先に確かめると、説明がつくこともあります。肝臓や赤血球に関わる組み合わせが見られるときや、運動や採血の条件では説明がつかないときは、医療機関で確かめてもらってください。

低めの値については、LDHだけで栄養状態を判断することはしません。食事の量やたんぱく質の指標(アルブミンやBUN(尿素窒素)など)は、LDHの低さとは結び付けずに、別の項目として見ています。

日常で見直せること

LDHの反応にはナイアシンから作られるNADが使われます。ただ、血液検査では試薬の中にNADを加えたうえでLDHの働きを測るため、体の中のナイアシンの量がLDHの値にそのまま映るわけではありません。ナイアシンを摂ることでLDHの値を整えられるという裏付けも、今のところありません。見直せるのは「測るときの条件」と「LDHを押し上げている背景」のほうです。

  • 検査の前の少なくとも3日間は、激しい筋トレや長時間の運動を控えます。慣れない種目や久しぶりの筋トレのあとは、1週間ほど空けられると安心です。難しいときは、いつ・どんな運動をしたかを記録しておき、結果と一緒に振り返ります。
  • 前回と比べるときは、時間帯や食事、運動からの間隔など、できるだけ同じ条件で測ります。
  • 結果票に「溶血」のコメントがないかを確かめます。LDH・カリウム・ASTがそろって少し高いときは採血のあとの溶血の可能性もあるので、医療機関で再検査を相談してください。
  • トレーニングの量を急に増やさず、睡眠と休養の日を取ります。
  • ビタミンB12を含む肉・魚・卵・乳製品や、葉酸を含む緑の野菜・豆類が、食事から極端に抜けていないか振り返ります。動物性の食品を摂らない菜食の人、胃や腸の手術を受けたことがある人、高齢の人、メトホルミンや胃酸を抑える薬を長く飲んでいる人はB12が、お酒の量が多い人は葉酸が不足しやすいとされています。薬は自己判断でやめず、主治医に相談してください。

気になるときは

LDHが基準範囲を大きく超えている、繰り返し測っても高い、運動や採血の条件では説明がつかない、といったときは医療機関で相談してください。

息切れや動悸がある、皮膚や白目が黄色い、尿の色が濃い、原因の分からない発熱や体重の減少が続く、強い筋肉痛のあとに尿が茶色くなった、といった症状があるときは、早めに受診してください。すでに通院している人は、自己判断で薬をやめたりせず、主治医と相談しながら進めてください。

ほかのコラム

この記事は、一般的な健康情報です。医療行為(診断・治療)ではありません。検査の結果が気になるときや、治療中の方は、医療機関にご相談ください。

参考文献

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